デザイン東京事業協同組合

改正取適法の概要

改正取適法とは？新しい法律名称の意味

　改正取適法は、「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」の略称で、通称で「取適法」と呼ばれます。この法律は、従来「下請代金支払遅延等防止法」や「下請中小企業振興法」として知られた法律を改正し、より中小事業者との取引適正化を目指すものです。新しい名称は、中小受託事業者が適正な代金支払を受けられることを強調しており、委託と受託の公平性を促進する意義が込められています。

現行の下請法との違い

　改正取適法は、現行の「下請法」と比べて適用範囲が拡張されている点が大きな違いです。従来の下請法では、下請事業者と親事業者という用語が使われていましたが、改正後は「中小受託事業者」と「委託事業者」といったより現実的な取引関係を反映した表現に変更されています。また、新たに価格交渉の義務化や手形払いの禁止が盛り込まれ、取引の公正性を一層強化する内容となっています。こうした変更点により、従業員数基準を追加するなど、より多くの取引が法の対象となり、中小事業者の保護を強化する仕組みが整っています。

発効日とその背景

　改正取適法は、令和8年（2026年）1月1日から施行される予定です。この改正の背景には、日本経済の長引くデフレや物価、賃金の停滞があり、価格の据え置きが続く中で中小事業者が負担を強いられてきた問題があります。また、近年では労務費や原材料費、エネルギーコストの上昇が続いており、特に中小企業にとって自社の負担を取引に転嫁できる仕組みの重要性が増しています。こうした課題を解決し、適正な取引関係を構築していくことが、改正の大きな目的とされています。

改正の目的とその影響

　改正取適法の目的は、委託事業者と中小受託事業者の取引の適正化を図り、公平な価格転嫁が可能な環境を整えることにあります。この取り組みにより、中小事業者が原材料費や人件費などの上昇に柔軟に対応でき、賃上げの原資を確保しやすくなると期待されています。また、禁止事項の追加や価格交渉の義務化により、受託側が一方的な負担を被ることが減少する見通しです。この法律は、委託・受託双方にとって公正で透明性ある取引につながるため、事業者にとって非常に重要な改正となっています。

改正取適法の主な変更点

委託・受託関係の新たな定義

　改正取適法では、それまで使用されていた「親事業者」や「下請事業者」といった用語が変更され、「委託事業者」および「中小受託事業者」という新たな表現が導入されました。これにより、委託と受託の関係がより明確化され、双方が適正に取引を行うための基盤が整備されています。この変更の背景には、事業者間の対等な関係を重視し、取引の透明性を高めるという意図があります。

適用対象範囲の拡大と具体例

　改正取適法では適用対象範囲が大幅に拡大されました。具体的には、「従業員数基準」が新たに導入され、これまで対象外となっていた一部の中小企業や事業者も法律の保護対象に含まれるようになりました。また、「特定運送委託」も範囲に追加され、それに関連する取引も明確に規制の対象となっています。この変更により、これまで保護が及ばなかった業種や取引形態にも取引適正化の効果が期待されます。

禁止事項に追加された内容

　改正取適法では、新たな禁止事項として「手形払いの原則禁止」や「価格交渉なしでの一方的な価格決定」が加わりました。これにより、中小受託事業者が不利な条件を強いられる状況を防ぎ、価格転嫁を適切に行える仕組みが構築されました。これらの改正は、中小企業が賃上げの原資を確保しやすい環境を整え、日本経済全体の健全な成長を目指しています。

代金支払遅延への新たな対応策

　改正取適法では、代金支払の遅延に対する厳しい対策が新設されました。具体的には、価格協議を実施せずに代金を一方的に決めることが禁止され、支払遅延に関する問題が発覚した場合には迅速な是正を求められるようになります。また、勧告や指導などによる政府の関与が強化され、違反が続く場合はより厳しい監督措置が取られる予定です。これにより、中小受託事業者の資金繰りが安定し、安心して取引を行える環境が整備されます。

委託側が知っておきたい実務ポイント

取適法の遵守が求められる場面

　改正取適法では、事業者間取引の適正化を目的とし、価格転嫁や代金支払いに関する規定が強化されています。委託側としては、契約内容や取引条件が改正法に基づいているか、特に遵守が必要な場面を特定することが重要です。具体的には、価格協議が適切に行われているかを確認し、一方的な価格決定が行われないよう注意を払う必要があります。また、従来の「親事業者」の立場を基盤にした取引慣行を見直し、新しい定義である「委託事業者」としての責任を果たすことが求められています。

発注時に留意すべき契約内容

　委託事業者が発注を行う際は、契約内容を改正取適法に即した形で策定することが重要です。従業員基準を含む適用対象に該当するかを確認し、透明性のある契約内容を確保することが求められます。また、最も留意すべきポイントは「価格転嫁の義務化」に対応できる契約条項を盛り込むことです。例えば、価格変動に伴う協議の実施や変更条件を明確化することで、中小受託事業者にも納得される取引基盤を築くことが可能です。発注書や請負契約書のフォーマットも見直しが必要になります。

価格転嫁の適正化に向けた対応

　急激な原材料費やエネルギーコストの上昇を受け、改正取適法では価格転嫁の適正化が重要なテーマとなっています。委託事業者は、中小受託事業者との価格協議を適切に実施し、コスト増加分を反映させる責任があります。この際、一方的な条件提示を避け、双方の納得感を得るための対話を重視することが効果的です。また、取引金額や条件変更に関する記録を適切に保存することも、法遵守やトラブル防止につながります。価格転嫁に関するルールが明確化されたことで、高い透明性が求められる場面が増えるため、事前準備が欠かせません。

違反時のリスクとペナルティ

　改正取適法に違反した場合、委託事業者には重大なリスクが伴います。不適切な取引条件や代金支払い遅延が発覚した場合、行政指導や勧告の対象となる可能性があります。また、状況によっては事業者名の公表や罰則が適用されるケースもあり、企業の信用を大きく損なう恐れがあります。このため、契約書や業務フローを適法に整備し、違反リスクを未然に防ぐ取り組みが不可欠です。特に改正法の適用対象となる取引は、定期的な確認と改善を行うことで、ペナルティの回避と信頼醸成の両立を図ることができます。

受託側が押さえておきたいポイント

改正取適法による事業者のメリット

　改正された取適法は、中小受託事業者にとって大きなメリットをもたらします。まず、従来の下請法では対象外だった事業者が、新たに適用範囲に含まれるようになったことで、多くの受託事業者が法律の保護を受けられるようになりました。また、取引における不透明な価格決定や手形での支払いが禁止され、現金決済など適正化された取引環境が整備されるため、資金繰りが改善する可能性があります。さらに、委託事業者との価格協議が義務化されたことにより、受託事業者は適切な価格で取引を行いやすくなります。この法律改正は、長期的に中小受託事業者の安定的な事業運営の一助となるでしょう。

不当な要求への適切な対応とは

　従来、受託事業者が委託事業者から不当な要求を受けても、明確な対抗策を取れずに困るケースがありました。しかし、改正された取適法では、手形払いの禁止や不適切な価格決定の防止が規定されており、不当要求に対して法的保護を受けやすくなります。不当な要求への対応としては、まず該当する行為が法律で禁止されているかを確認し、記録を保存すると共に、必要に応じて取引適正化推進機関へ相談することが効果的です。また、事前に契約書で具体的な取引条件を明記しておくことで、トラブルを事前に防ぐことも重要です。

トラブル事例から学ぶ実践対策

　過去のトラブル事例を分析すると、不当な価格引き下げや支払遅延が多く発生していました。例えば、委託事業者が一方的に価格を引き下げ、大きな損失を被った中小受託事業者がいたケースがあります。このような場合でも、改正取適法では価格交渉が義務化されているため、受託事業者側が一方的な価格変更を防ぐ手立てが存在します。また、受領した注文書や契約書に基づき、事実を記録しておくことが紛争解決の際に役立ちます。トラブルを未然に防ぐためには、発注時に取引条件を具体的かつ明確に取り決めることが重要です。

改正点を活用した交渉のポイント

　改正取適法を有効に活用することで、委託事業者との交渉をより有利に進めることが可能です。特に、法律で義務化された価格協議は、過去には実現しにくかった適正な価格交渉の場を提供します。また、同法が定める禁止行為（手形払いの禁止や不適切な価格決定の禁止など）を活用し、委託事業者に対して合法的かつ具体的な根拠をもとに交渉ができます。さらに、自社に適用される法律内容を十分に理解し、説明会や外部専門家を利用して最新の知識を得ることが、交渉力の向上に繋がるでしょう。

改正取適法を実務に活かすために

法改正への対応プロセスを整備する

　改正取適法が2026年1月1日に施行されることから、事業者は早急に対応プロセスを整備する必要があります。まず、自社と委託・受託事業者との取引関係を見直し、改正後の適用対象範囲や新たな定義に適合しているかを確認しましょう。特に、契約内容や発注書のフォーマットの見直しは重要です。また、価格協議が義務化されたことを踏まえ、交渉のプロセスを標準化し、記録が残る形で適切に実施できる仕組みを構築することが求められます。

改正の周知と社内研修の重要性

　改正取適法を従業員全体に周知し、適切な運用を目指すには、社内研修を実施することが欠かせません。特に取引や発注業務に携わる社員に対しては、法律の変更点や新しい委託・受託関係の定義について具体例を交えて説明する必要があります。さらに、研修では契約書の適正化や禁止行為となる不当な取引の認識を深めることで、法律遵守意識を高める効果が期待できます。これにより、下請法の改正内容を正しく理解し、日々の業務に生かす体制を築き上げることが可能です。

法律遵守を助ける外部リソースの利用

　改正取適法への対応をより確実にするためには、外部リソースの活用も検討するべきです。例えば、中小企業庁や商工会議所、弁護士や中小企業診断士といった専門家のサポートを受けることで、具体的な対応策を講じることができます。また、各都道府県で開催される改正取適法の説明会への参加も有効です。これらのリソースを活用することで、取引適正化に向けた実務の改善を効率的に進めることが可能となり、法改正に対応した体制強化を図ることが可能です。

改正取適法の継続的なフォローアップ

　改正取適法への対応は、施行日までに準備するだけでなく、継続的なフォローアップが重要です。法律の適用範囲や運用指針が今後さらに見直される可能性があるため、最新情報を常にキャッチし、自社の対応プロセスに反映させることが求められます。また、事業者間の取引におけるトラブル事例や行政指導事例から学び、リスクを未然に防ぐ工夫も必要です。さらに、社内での遵守状況を定期的にチェックし、必要に応じて手続きや方針の再調整を行うことで、実効性のあるコンプライアンス体制を維持できます。